明日死ぬ僕と100年後の君
あの日以降、不思議な毛色の猫のおっさんを誰も見ていない。
あの猫が幻ではなかったとしたら、おっさんは有馬の中に消えたのだ。
わたしから生まれた、光る玉とともに。
気まぐれで、最後までわからない奴だった、と。
退院する時有馬がぽつりと呟くのを聞いた。
仲が良いのとは違ったかもしれない。
けれど互いに、情のようなものを通わせていたのだろうか。
有馬はいまでもたまに、少し寂し気に自分の足元を見つめている。
「ところで、そういう勘ちがいのせいで僕の告白の返事を保留にしてたのかな?」
「……えーと」
意地悪げな笑顔でのぞきこまれ、たじろぐ。
あの事故で有馬の距離感がおかしくなったのか、やたらと近づかれるのが困りものだ。
有馬は平然としているのに、わたしばかりが意識してしまい逃げ出したくなる。
「だったら、もう誰かに遠慮する必要もないよね」
「あー……うん。ええと」