明日死ぬ僕と100年後の君

「ただいま、ひいばあ。起きてたの?」

「起きてたよぉ。どちらさまだったかねぇ」

「いくるだよ。いくる。ひいばあのひ孫のいくるだよ」

「ああ~。そうだったぁ、そうだったぁ。お帰りぃ、いくるちゃあん」



入れ歯の入っていない口で、一生懸命喋るひいばあちゃんは、去年110歳の誕生日を迎えた。

さすがに認知症は進んできたけれど、年齢の割にとても元気な人だ。

足が元々悪く、最近はベッドから降りることはほぼなくなった。


梅ゼリーが好きで、自由に動き回れていた時は、庭の梅の木から採れる梅で色々作っていたらしい。

わたしが小さい頃は、おばあちゃんがそれを引き継いで梅酒を漬けたりしていたけれど、いまは梅が生っても放置され、地面に落ちて汚く潰れている。


いまのおばあちゃんやお母さんに梅をどうにかする余裕はないし、わたしは実は梅が苦手だ。

なくても別に困らない。

梅の詰まった瓶が並ばなくなった勝手口を見ると、少し寂しく思うくらいだ。

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