いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「あの大学生、やばいことになるかもしれない」
「あの大学生って?」
「あなたを助けにきた人。兄貴と同じ大学の」
「勇?」
頷いた瞬間、勝子はひかりの白いブラウスの襟元を力いっぱい掴んで自分の顔に近づけた。
勢いの強さにひかりの頭が一旦後ろにがくんと反って前に戻った。
「勇に何をしたの?」
勝子の瞳に浮かぶその怒りの大きさにひかりはひるむ。
「わ、私じゃない……兄貴が、兄貴がムカついたから仕返しするって――」
「どうやって」
勝子はひかりの襟を締め上げる。
いつもなら仲裁に入るひかりの子分、美加と由紀も、あまりにピリピリと張りつめた空気に口をはさめず2人のやり取りを聞いていた。そして昨日出会ってから美加と由紀の話題の中心となっている勇がひかりの兄によって危ないことになろうとしているということに驚き、不安を感じながら2人の会話に耳をすます。
「サイナスという愚連隊みたいなグループに頼んで――」
「いつ、どこで?」
「今日、4時に講義が終わったらウニクロ代々木店の地下駐車場に連れて行くって……」
勝子が教室の時計を見るとちょうど3時50分になるところだった。
ひかりから手を放し、勝子はすぐに勇に電話をかけたがつながらない。
勝子の高校から代々木まではタクシーなら15分で着く距離だ。
勇のスマホに留守電とライン両方にメッセージを残すと、勝子はひかりの顎を掴んで持ち上げ「あんたたち、他人を傷つけてそんなに面白い? 楽しい? 腐った兄弟ね」と、今にも炎が上がりそうな目でねめつけてから、ダッシュで教室を出ていった。
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