いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「俺が勝子を好きだと思う理由は?」
「勝子を見る目がハンパなく優しいから」
「それだけか」
「十分すぎる証拠だと思う。愛が滲みでてる。俺には見せない眼差しだ」
「そうか?」
強は勇をちらっとみて笑い、「けど隠せないものだな」と、まだ短冊が下がっていない笹の枝を見上げた。
「勝子にとって強さんは強くて優しい最高の男だけど、今は兄貴だ。彼氏にはできない最高の兄貴。ずるいけどそれが今の俺にとっては強さんに対抗できる唯一のアドバンテージ」
「じゃあ俺は、たとえば受験前だから勝子には近づかないでほしいとか、家族の力を行使するか」
「家族ハラスメントだ」
「予想外にあせっているんだ。驚くほどに。お前はいいやつだし、いつか勝子と付き合うことになるのかもしれないなんて思うこともあった。勝子がそうしたいならそれでいいとも。でも実際にはとても難しい」
「ということは――」
「かっさわれたくない、っていうことだ」
「でも、もし勝子がおれのものになったら?」
強はまた笹の葉を見上げ、瞬き2つほど考えて、その視線を勇に戻した。
「一旦は君に預けたとしても、必ず取り戻す」
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