いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
高級ブランドの靴にGPSを仕込んで勝子に与えたのは父の剛だ。
中学校卒業間近、勝子は拉致された。
といっても真実は、勝子に思いを寄せる1学年下の男子に頼み込まれて、学校帰りにデートをしていただけなのだけど。
チケットを買ってあるからと、当時大ヒットしていたSF映画に付き合わされた。
その後スタバでキャラメルマキアートをごちそうしてもらい、映画の話で盛り上がり、気が付いたら夜の8時を過ぎていた。
当時まだ携帯もスマホも持っていなかった勝子が彼のスマホから家に連絡したとき、心配性の家族は「そろそろ捜索願を出すべきか」と額を寄せあっていた。

このときの恐怖から、剛は高校祝いにGPSを仕込んだ――靴が勝手に移動するとピピッと警報がなって教えてくれる――学生靴――それもやたら高級なエルメスの――を贈ることにしたのだ。
だったらスマホでいいじゃないか、と妻のミキに言われても、スマホじゃ取られたり落としたりしたら意味がない、と靴にこだわった。
じゃあ何もブランドものじゃなくて普通の靴にしろ、とたしなめられても、良い靴じゃないと毎日履いてくれないじゃないかと押し切った。
ブランドにうとい勝子は「エルメス」を知らなかったが、美しいフォルムがとても気に入った。
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