いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「まったく、勝子は誰に似たのか――」
とそこまで言って、剛は口ごもる。
なぜなら勝子は剛たちの実子ではないからだ。

勝子の両親――三田守と綾子――は、勝子がまだ1歳半の時――まだ父母の思い出を記憶にとどめられないうちに――死んだ。
家族で初めて動物園に行った帰り道。
すべてのものがもの珍しく、嬉しそうにきょろきょろしてばかりいる勝子を連れて歩いていたにぎやかな繁華街で。
通り魔事件に巻き込まれて刺殺されたのだ。
目の前を逃げていく女性を助けようとした守は何カ所も刺され、心臓まで達した胸の傷が致命傷となった。それを目の当たりにした母は勝子を抱いて慌てて逃げたが間に合わず、背中から4度刺された。搬送先の病院に到着する前に息を引き取った。
倒れていた母の身体の下で、勝子は無傷で見つかった。とっさに身を挺して母が勝子を守ったのだろう。
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