いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
自分の本当の両親について勝子は知らない。
記憶が残らないほど幼かったことは幸いだといえる。
悲惨な事実だけに真田家ではこの事実を勝子が受け止められるくらい成長するまで秘密にしておこうということになっている。
しかし果たしてそれはいつのことか――。

剛は勝子のことを実の娘のように思っている。
だからつい、誰に似たのかなどという言葉が出たのだが、嫌なことを言ってしまったと後悔し、ミキが「それは当然私じゃなくて――」と言いかけると「ああ、そうだな」と、その答えを遮った。
俺たちに似たわけではないのは当たり前だ、と。
しかしミキは構わず先を続けた。
「それは当然私じゃなくて――あなたでしょ。あの向こう見ずなところは」
一瞬きょとんとした剛は、ミキを見つめて、「ああ、そうだな」と目を細めたが、ミキは「でも……」と少し考える風をした。
そして「でもやっぱりあの勇敢なところは私似かしら。あなたは意外とふがいないもの」と、にこっり笑った。
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