いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
少しして担任教師が教室に入ってくると勝子は椅子から立ち上がり、とたんに悲しみの表情を顔いっぱいに広げて教師の顔を見た。
30代前半の女教師は、転校生・勝子のすがるような瞳に「どうしたの?」と不安そうな顔をした。
そしてしょんぼりした風情でゆっくり黒板に顔を向けた勝子の視線を追って落書きをみた教師は表情を変える。
「こ、これは……」
「教室に入ってきたら、こんなことを書かれていて……。怖くて席につけなくて……」
うなだれる勝子の肩に女教師はそっと手を乗せた。
そして生徒たちに向かって怒鳴った。
まだ20代にも見える童顔に似合わず迫力のある声で。
「こんなことをしたのは誰!」
そこで勝子は迷うことなくひかりたちを指さした。
「玉木(ひかり)さんと鎌田(由貴)さんと、田口(美加)さんです」
「何言ってんのよ。証拠はあるわけ?」
速攻美加が反論し、ひかりは余裕の笑みを浮かべている。
そこで勝子は2つのスマホの動画を交互に教師に見せながら「先生、今後エスカレートするのが怖いので、私この動画をYtubeにアップしようと思っています」と訴えた。
ふっくらした頬をこわばらせ、険しい顔で動画を見ていた教師が勝子を見つめ、とても誠実でつらそうな顔をした。
「真田さん、それは待ってもらえる? 彼女たちには厳重注意して、私が――先生が責任を持ってやめさせるから」
先生の厳重注意くらいでこの手のいじめは止まらないだろうとは思ったけど、勝子は「わかりました……」と殊勝に頷いた。
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