いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「じゃあ、もう少し離れてくれますか」
そんなつもりはないのに、怒ったような声音になってしまって、典子は悲しくなった。
でも勇は別に不快そうな様子も見せず「わかった」と言って、典子の後ろについた。
横に離れるのではなく、後ろに。

自分が見えない後姿を見られるのは、ものすごく恥ずかしい。
白いソックスが食い込む太いふくらはぎも、厚い背中も、多少の風では舞うことのない真っ黒でしっかりとした髪も、女子学生の可憐さからかけ離れた――真田勝子とは雲泥の差の――自分の後姿を見られたくなかった。

立ち止まり、典子は勇を振り向いた。
「あの、後ろじゃなくて横に離れてくれませんか」
一瞬きょとんとした勇は、すぐにアハハハと大きく笑い「そうだよな、後ろからくっついていったらまるでストーカーだよな」と言って、少しだけ距離をあけ、典子の左側に並んだ。
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