いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー

しかし「遅いぞ」と、赤樫の木刀を手に勝子を待っていたのは強だった。
「あれ、じい様は？」
「急に人と会うことになって、ピンチヒッターを頼まれた」

強の会社は行政や世間の波に乗り、率先して「働き方改革」に取り組んでいる。
テレワークの環境を整え、家でできる仕事はどんどん家でやってくれ、という風潮なので、強も家で仕事をしていることが多い。
会議も打ち合わせもウエブでできるようになったので、どうしても会社でやらなければならない仕事は劇的に減った。
この日は会社での確認作業があったため、珍しく強は朝早くから出社したのだが、昼に勝次郎から連絡があり、「じゃ、頼んだぞ」と、用件を一方的に話すと、強が承諾する間もなく電話を切られた。
本当は強もそれなら今日はやめたらどうかと言おうとしたのだが。
ふうと軽くため息をつき、強はするべき仕事を急いで終わらせオフィスを出た。
それなのに勝子ときたら。
「なんだ」、とあからさまに気の抜けた顔をする。