いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「火種はあっちだよ。話したよね」
「だけど火種につっこんで揉め事を大きくしたのはお前だろ?」
聞き分けのない子供を穏やかに諭すかのような強の言い方に、勝子はさらにかちんとした。
「強ちゃん、私、間違ったことした? 山城さんが嫌がらせを受けているのを、見てみないふりすればよかったのにって、強ちゃんは思うんだ。ふう~ん、強ちゃんてそんな人だったんだ、知らなかった。武道を教えているくせに、なんだか姑息で情けないね」
容赦ない勝子の言葉が大砲級の衝撃を放って強の胸にガツンと打ち込まれる。
強はいっとき息を止める。

勝子にとって、弱い者いじめをするやつは、くずだ。
そしていじめを見て見ぬふりするやつも同様だった。
いらだちを超え、怒りを湛えた勝子の視線がさらに強を射ぬく。

強にとって、勝子に軽蔑されることは大きな痛みだ。
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