いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
この日の6時限目の授業は数学だったが、担当教師が突然体調不良となって、6時限目がカットされた。
今日はもう帰宅してもいいと伝えられると、勝子は教科書やノートを素早くリュックにしまって背負い、さっさと教室を出た。

歩きながら、それにしても今日はやけにひかりたちが大人しかったな、と考える。
山城さんにも勝子にも突っかかってくるようなことはなく、平安な1日だった。
大人し過ぎてちょっと不気味なほどに。
台風の前に生ぬるい風が頬をすっと撫でていくような、そんな嫌な感じがするほどに。


駅までの道、両側に並ぶ邸宅の庭からは様々な木々や花が顔をのぞかせていた。
まだ秋というには暑いけれど、普通のコスモスより早く咲くチョコレートコスモスが、シックな色をまとって風に揺れていた。
フェンスから突き出している花に近づき、勝子は顔を寄せてみた。
「本当にチョコレートっぽい香りがする」
なんだか嬉しくなって、勝子は駅までの道を小走りした。
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