いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
彼女はハッとして顔をあげ、勝子を見つめた。
長めに切りそろえた前髪すれすれにのぞく目が、少し怯えている。
改札の上に設置されている丸い大きな時計を見上げ、勝子は「また稽古に遅れちゃうよ……」と気を重くしながらも、結局放っておけなくて、踵を返した。
「待って、私も行く」と彼女が声をかけた時にはすでに勝子は走り出していた。
それは別に早く公園に駆けつけなければ、と思ったわけでなく、とっとと用事を済ませて早く戻らないと、稽古に間に合わないどころか稽古に出られない! と思ったからだ。
「もぉーーー!」
小さく呻き、勝子は速度を上げた。
「真田さん、だから……早いってば……」
後ろからアヒアヒしながら必死に追ってくる気配は気にせず、勝子は桜山公園の中に走り込んだ。

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