いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「実はさ、この子、俺の彼女。だから手を出さないでね」
自分に向けられた勇の人指し指を勝子は手ではじき、「彼女じゃないよね」と、ジャブをまねて右手を打ち出した。
「まだね」
笑いながら突き出された拳を手のひらで受け止め包み込み、まだねってどういうことよと勝子が問う前に、勇は「帰ろう」と勝子を引き寄せた。
まだ日が暮れぬ時間にカラオケ屋の前でたむろして、さらにいちゃついている、としか見えない若い男女をサラリーマンたちが軽蔑とも羨望と思える視線を送りながら足早にすぎていく。
「私も帰る」
もう証人になる必要がなくなった高木さんも勝子の隣に並び、変える意思表示を示した。
昨晩玉木兄妹がたてたガサツで邪悪な計画は、この時点で未遂に終わった。
男3人+女子2人vs男(浩二)+女子3人の構図。
どんな展開になろうとも、浩二たち勝ち目はない。
そんなことをいち早く察したひかりが「もうこの際、真田たちはどうでもいいから、この人たちと合コンしようよ」と、勇の横で静かに立っている、顔はソフトなイケメンなのに屈強そうな体格の若い男性2人に顔を向け、にっこりと笑って見せた。
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