いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
けれどそのとき勇は「でも強さん、俺は行かれないからよろしくって言ってたよね」と強に話しかけていて、浩二の舌打ちの音も「大げさだな」という声も勇には聞こえず、浩二の独り芝居のようになってしまった。
「急な歯痛で耐えられないからと言って会議を遅らせた。で、今俺は歯医者に行っていることになっている」
勇が強に電話を掛けたとき、強は大事な会議が合って抜け出せない。代わりに人を出すといって、エクセルガードから若いガードマンを2人呼んだのだ。
勇の横に並ぶ屈強そうな2人は、そんな強の職権乱用で送られてきた男たちというわけだ。
「強さん、相変わらず自由だね」と言うと同時に、勇の隣にいた勝子が強のもとに移動して、そばに寄った勝子の肩が自然に強の腕の中に納まった。
とても自然でスムーズだった。
「そんなに仕事を抜け出してたらいい加減くびになっちゃうよ。早く会社に戻った方がいいよ」
頭を強の肩に預けながら勝子が言う。
最近自分のために仕事を抜け出してばかりの強に、勝子は責任を感じていたのだ。
勝子は強を見上げ、強は勝子を見下ろし、2人の顔が近づく。
くっつきそうなほど顔を寄せた2人。その様子に勇はドキリとする。
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