いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
「大丈夫。俺、仕事できるからさ」
勝子に大げさなドヤ顔をして見せてから強は勝子の肩をキュッと抱きよせた。
「じゃあ、帰ろうか」
勇が言うと「僕たちも、もういいですか?」と、強の了解を得てまずエクセルの2人が去っていった。
その後ろ姿をひかりたちが目で追いかける。
「ちょっといいかな」と、浩二の前に立ったのは強だった。
何だよ、と言おうとしたのに、「何ですか?」と丁寧語になったのは、浩二が強の迫力にひるんだからだ。
「君が、玉木浩二くん?」
「だったら何だよ?」
今度は乱暴に言い返すことに成功した。
「もう勝子にちょっかい出さないでくれるかな。勝子になにかしたら、君、後悔するよ」
薄刃がさっと頬に触れたようにひやりとした声だった。
「なんだよ、何にもしてねーだろ」
「した。真田さんと私をここまで拉致したわ」と、ここで高木さんが証言者の役割を果たした。
それと君――ひかり肩に手を置いて、強は鋭い視線を一転、ふうわりと優しい眼差しを彼女に向けた。
冷たくも見えるクールな顔立ちが、少し頬を緩めただけでとても優しげな顔に一変した。
自分より20センチは高いところから自分をのぞき込む強の視線を間近に受け止め、ひかりはどぎまぎした。
“どきどき”ではなく“どぎまぎ”だ。
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