青春の蒼い花

消えたキス



「ねえ、あれ、ほんとにしたの!?」



劇が終わり、急いでセットを片付けている間、
私はクラスの子達から何度もその問いかけをされる。


私は忙しいからと言い訳をして、それから逃げた。


でもやっぱり文化祭が終わり、
教室に集まった時、高津の周りには沢山の男子が集まっていて、


「キス」という言葉に敏感になっている私は

彼らがなんの話をしようとしているのか容易に予測できた。


だけど高津はそれを押しのけて、教室から出ていってしまった。



でも、私はどうしても

なんであいつかあんなことをしたのか気になって仕方がなかった。



気づいた時には私も教室を飛び出していた。



廊下の先には高津が見えた。




「待って!たかっ_____」


「蒼衣!」



その瞬間私を呼び止めたのはたく兄だった。



「ごめん、たく兄、私ちょっと、、」



早く追いかけないと、いなくなっちゃう


でもそうしようと思ったら、

たく兄が私の腕を強く掴んでいた。




「...なんで行くの?」


たく兄はいつものたく兄じゃなかった。



また、あの知らない男の人の顔だった。




たく兄は私の腕を強く引っ張って
私を北校舎の踊り場まで連れてきた。


文化祭後ということもあり、
普段にもましてここを通る生徒はいない。



「蒼衣、高津勇心と付き合ってるの?」



不機嫌な顔でたく兄が言ってきた。


「...付き合ってないよ。


といか!私高津に用があるの!!!

だからたく兄そこどいてよ!!」



私は前方を塞ぐたく兄を押しのけようとするがビクともしない。

そしてまた私の腕を掴むと


「蒼衣は俺が好きなんじゃなかったの?
もしかして...あいつのこと好きになったの?」



え、



なんで、そんなこと、今.....




私はぶんぶんと首を横に振った。



「じゃなんで、
あいつのとこ行こうとするんだよ。

俺が好きなら俺だけ見てろよ。


キスなんか…されんじゃねーよ!

俺だって、あいつとお前とのキス見てたんだぞ?


もしかして、俺がどう思ったかなんて全然気になんなかったの...?」




こんなにも荒っぽい言い方をするたく兄を見たのは初めてだった。


でも、苛立っているというより、なんだかとても悲しそうな表情だった。


そんなたく兄の顔を見たら、私は胸がギュッと苦しくなった。



そして、自分に自問自答していた。


でも出てくる答えは自分のしていることと全く逆のことだった。




たく兄が好きだ。



じゃあなんで、私は高津にキスをされた時、



たく兄の気持ちを考えなかったのだろう...。



高津を追いかける前に、誤解を解くためにたく兄の元へ行くべきだったはずだ。


あれは私の意思でしたことじゃないんだって
私はたく兄が好きなんだって


そう言って、あのキスをなかったことにしてもらおうと必死にならなければならないはずだった。



それなのに私は、たく兄を目の前にしても

高津の背中を追いかけようとしていた。



あのキスの理由を知りたくて、



なかったことにするどころか、確かにあったのだと確認しに行くようなことを私はしようとしていたんだ。





自分の矛盾点に気付かされ、確かな答えが出せなかった。



俯いてしまった私の顔をたく兄はくいっと顎を持って視線を合わせてきた。



そしてそれから先は一瞬で、

またふわっとした感触がじんわりと冷たく私の唇から伝わってきた。





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