青春の蒼い花
自覚
家庭教師
「春川先生、ここの英語の訳がちょっとわかんなくて...」
俺が高校生のころ、養護教諭の春川あずさ先生は俺の家庭教師だった。
「えっとここはねー」
女性らしくて、こうして近くにいると
ほんのり甘い香りがする。
髪の毛はサラサラで、スタイルも服装も女性らしくて、美人で、
初めて会った時にこの人は恋愛で困ったことなどない人なんだろうなって思った。
「前から思ってたんだけどね、卓巳くんの部屋ってなんだかとても落ち着くのよね。
なんでだろう。」
ふと彼女は俺の部屋を見渡しながらそう言った。
俺にとっては特に変わったところなどないと思っていた。
だけどあずささんは何か思いついたような顔をした。
「わかった!青色!
卓巳くんの部屋って青色の物が多いのよね!
ほら、椅子も青だし、ペンケースや時計、あと服もよく青色のやつ着てるわよね。」
そう言われて俺は改めて自分の部屋にあるものの色を見た。
あずささんの言う通り、青色が多い。あとは白や黒といったモノトーンのもので、唯一ある色が青という感じだった。
「青色が好きなの?」
「いや...、別に。
どちらかというとモノトーンが好きなはずなんだけど...。」
今まで、好きな色は?という問があれば、
黒と答えていた。青なんて浮かんでこなかったのに、俺の身の回りには無意識のうちに青色の物があつまっていた。
「私、青色好きなのよね。
持ってるものはピンクが多いんだけどね、
私青色が似合わないから。
でも、見る分では青色って落ち着くのよね。
だから私、卓巳くんの部屋、好きなのよ。」
「多分、よく遊んであげてる女の子が青色好きだから。そいつ蒼衣って名前で.....ってこんなんじゃ、理由になってないか。」
理由を言えと言われれば、
こんなことくらいしか思い浮かばなかった。
「へえ~、そうなんだ。
じゃあ、卓巳くんはその子のことが好きなの?」
「まさか、そいつまだ中1ですよ。」
俺がそう答えるとフフフと面白そうにあずささんは笑った。
「じゃあ、好きな子は?」
「今はいないです。」
「えー、でも卓巳くんモテるでしょ?」
どうしたんだろう。
さっきからこんな質問ばかり。
でもこの時の俺もなんか少し変で、
少し顔があつかった。
こんな質問、同級生の女子からは何度も投げかけられてきた。
だけど、この人から言われるのはなんだか、こそばゆくて、目を合わせられなくなった。
「モテませんから。もーいいじゃないですか、そういう話。」
俺がその話を切りやめようとすると
彼女は少し拗ねた顔をした。
俺は再び机の上の問題用紙を見つめ直した。
だけどすぐに
「ねえ」
という彼女の透き通るような声が聞こえ、
振り向くと
気づいたときにはすでに、
今までに感じたことの無い柔らかいものが俺の唇に触れていた。
「私、卓巳くんのこと好きよ。」
そしてもう一度、彼女の唇が俺の唇と重なる瞬間、俺はそれを受け止めるように目を閉じた。