青春の蒼い花
「あれ?白石んち?」
高津が指さしたのはうちの表札。
「うん、そう」
そして家の目の前まで来たとき、あることに気づいてしまう。
「…たく兄の車…」
車庫の扉が開けっ放しになっていて、青い車がのぞいていた。
そしてパタンと誰かがドアを開け、降りてくる音がする。
「蒼衣おかえり」
私を見て真っ先にそう言ってきたが、私の横に目を移した瞬間驚いた表情をする。
「高津君…」
そして恐る恐る隣にいる高津の顔を覗いた。
こちらはさらに驚いた表情であった。
「…白石、なんで浅井先生がいるの。」
「…それは……」
「おかえりって、まさか一緒に暮らしてたりするわけじゃ…」
表情は変わらず、ふさがらない口でそういった。
「高津君、事情話すと長くなるんだけど、俺のことは見なかったことにしてくれない?」
そういってたく兄はうちへ入ってしまった。
やってしまった。まずいよ、この状況!
「今の何。なんで浅井先生と一緒に住んでんだよ!」
怖い顔をする高津に、私は必死に経緯を話した。
そして高津も私の話を理解してくれたのか落ち着いた様子を見せた。
「経緯はわかったけど…、いいのかよ。好きなんだろあいつのこと。」
「だって私は…もうふら_______」
ガチャ
玄関の扉が開く音で会話がかき消された。
「あら、こんにちは。外で声がするなと思ったら
なになに???蒼衣の彼氏!?ぜひあがってあがって!!」
出てきたのは私の母だった。
私が男子といるところを初めて見たからか、すごくテンションが高い。
「やめてよ、お母さん!そんなんじゃないから!
気にしないで!浅井先生のことはまた学校では____」
そう言いかけている途中で、高津は私の母に腕を引かれ、うちの中に入ろうとしていた。
「ちょっとお母さん!!」
「何よ。あんたが最近元気ないからお母さん心配してたのよ。
まさかこんなにもかっこいいお友達がいたなんて。
最近ため息が多かったのは高津くんのせいだったのかしら。」
そういってクスクスと嬉しそうな母親に
あきれてため息をついてしまった。
高津も嫌がっているだろうに…と思い見てみると
案外普通の表情だった。
「あ、おかえり蒼衣。誰その子?」
リビングに行くとお姉ちゃんがソファーの上でくつろいでいた。
「蒼衣の男友達なんですって!
お姉ちゃん、そこ座らせてあげて」
「い、いえ、僕は結構です。
お邪魔するつもりもなかったので。」
「お母さん、ここじゃあ、その子も落ち着かないよ。
蒼衣の部屋に案内してあげなよ。」
そういわれ、なぜか高津を私の部屋に招かなくてはならなくなった。
「ごめんね…。うちの親、話し出したら聞く耳もたないから…。」
「全然いいよ。元気なお母さんでいいじゃん。」
そう言って、他愛もない話をした後、
高津は本題を切り出すかのように空気を換えて見せた。
「あのさ、この家に、浅井先生いるんだよな。」
「…うん。」
「…ならいいじゃん。もともと幼馴染で仲良かったわけだし、
歳だって白石と6歳しか変わらないし。いけるんじゃないの。」
そういった高津の顔はなんだか少し悲しそうに見えた。
『白石が好きだ』
さっき言われた高津の言葉がよみがえる。
「…あきらめないんじゃ、なかったの…?」
こんなこと聞くなんて、うざい奴だと思うだろう。
「だってさ、勝ち目ねえもん。」
そういって高津は黙ってしまった。
私も何も言い返せない。
そして胸のズキズキがさらに強くなる。
なんなんだろう。どうしてこんなに胸が痛むんだろう。
「…ごめん、やっぱ俺帰るわ。」
そういって高津は立ち上がった。
「うん…」
私も続いて立ち上がり、部屋のドアを押した。
そのまま玄関まで行って、高津は帰っていった。