青春の蒼い花


「たく兄!!」

私は勢いよくたく兄の部屋のドアを開けた。



久しぶりにやって来たたく兄の部屋は以前来た時と変わり果てていて、積み重ねられていた漫画も、棚に綺麗に並べられていた私たちとの写真も、クローゼットに収まりきってなかった服たちも無くなってしまっていて殺風景だった。

ただ、あちらこちらに荷物の入ったダンボールがあった。


「たく兄…」


「恭子さんから聞いちゃった?」



「なんで…たく兄…」



なんで遠くにいっちゃうの?


受験が終わったら、また毎日のように会えると思っていたのに。
毎日相手しにいってもらうつもりだったのに。




好きだっていうつもりだったのに…。


「ごめんな。言わなくて。
言おうと思ってたんだけど、言えなかった。」




床に座り込んでいたたく兄は
よっこらしょっと立ち上がり、



私に歩み寄る。



たく兄は背が高くて、見上げてみると、尚更かっこよく見える。


30センチほどの身長差を縮めるように、たく兄が膝を曲げて、私の視線に合わせた。


ポンポン



まただ。また、この優しい手で、私の頭を撫でてくる。


ポンポンとこのリズムが心地よい。



それと同時に涙がこみ上げてきてこぼれ落ちた。



「泣くなよ、蒼衣。
別に永遠の別れじゃないし、また遊びに来るから。」


たく兄を困らせているのはわかっているけど、

私はまだ子供で、



大好きな人との別れなどまだ耐えられない。



「いつ、行っちゃうの?」



荷物の様子をみると、直ぐにいなくなりそうな感じがした。


「今週の金曜が卒業式で…、それで…来週の火曜にはもういない。」



ってことは、ここにいるのもあと六日。




なんでこんな急に…




涙がボロボロと出てきた。



今度は優しい手が頬を包み込んだ。



ぼやける視界には優しく微笑むたく兄の姿があった。


ああ…




やっぱり……




「好き」


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