青春の蒼い花
信じたい気持ち
「今日から英語の授業は、浅井先生がしてくれます」
そう言うと、英語担当の先生は教室の隅に椅子を立ててそこに座った。
たく兄が教卓に立って授業をしている。
それが不思議でたまらなかった。
問題を解いている最中、机と机の間をたく兄が通り過ぎていく。
近くに来る度にドキドキした。
「先生、ここわかんない~」
いつもは黙ってノートをとっているか、寝ているかの生徒たちがたく兄の授業となると積極的になる。
私はそれが気に食わない。
休み時間、たく兄の話ばかりをし、勝手な妄想を広げる彼女たちが許せなかった。
それを僻む男子たちも嫌いだ。
ずっと苦手だった英語の授業が楽しみと思えるのはたく兄がいるからだ。
その分、女子に言い寄られるたく兄の姿をみると、胸がチクチクと痛くなった。
彼女らの様子が見えないように少し俯くことが多くなったと思う。
だけど気になって横を向くと、
高津と目が合う。
そうなることが最近多い。
右を向くと高津と目が合う。
急いで目を逸らすけど、その度に恥ずかしい気持ちになる。
向こうはなんともないという感じ。
実は私を見てるんじゃないのかな?
それを確かめるために、もう一度横を見ると
5秒くらい目があった。
「なんだよ、さっきから」
先に言って来たのは高津だった。
「や、だってあんたがずっと私の方みてるから…!」
「別にお前見てたわけじゃねーつうの。
俺は…っ…そ、外みてたんだよ。」
なんか、最近の高津っておかしいんだよね。
「あんた、最近……」
私が高津に話しかけようとしたとき、
目の前にたく兄がやってきた。
「白石さん分からないところがあるの?」
「えっ…」
突然のことにプチパニックになった。
「無いんだったらお喋りしないでね。
そんなに俺の授業退屈かな?」
そう言って顔を覗き込んでくるたく兄は、私をからかっているように見えた。
戸惑う私を見て、楽しんでいるのだろうか。
そう思っているのに、私はそれに対抗するほどの余裕がなかった。
ポンポン
たく兄がこっそりと頭を撫でてきた。
それが私とたく兄の秘密に思えた。
たく兄のポンポンは心地がよくて、虜になる。
体温が上がって視界が霞んでいくのが自分でもわかる。それでも必死にたく兄の姿だけを目で追っていた。