青春の蒼い花
友情か非か
十月に入ると色々と忙しくなる。
そのひとつが文化祭だ。
「はーい、これから文化祭の出し物決めるから、みんな近くの人と相談して案じゃんじゃん出してねー」
実行委員の声掛けとともに、おしゃべりタイムが始まった。
席を立ち始める生徒もいたが、この時間は生徒主体というわけで、先生は何も言ってこなかった。
そういうわけで、もちろん、私の横の席には女子が群がるということだ。
「勇心~、何したいか決めた?」
「いーや、全然。
俺なんでもウェルカムだよ。」
そう言うと女子たちも
「私もなんでもいいやー」
と言って、ほんとのほんとのおしゃべりタイムをはじめ出して、文化祭のことなんて無視だ。
私は呆れ果てるが、
確かにこういうのってなかなか案とか出てこないよね。
1年生は劇をするということは決まっていて、実習生も劇に参加するらしい。
「ねえ、たくぴーは何がいいと思う?」
「え…?」
急に話をふられ、困った顔をするたく兄。
女子たちはクスクスと笑い始める。
答えなんて求めている訳では無い。
ただ先生を困らせたいだけだ。
それなのに、たく兄は
しっかりとその質問に答えた。
「俺がここにいたときは、
美女と野獣をしたかな。」
キョトンとする生徒たちだが、
たく兄の発言力は凄まじい力をもっており、
「いいじゃん!美女と野獣!!」
いとも簡単にテーマは決まってしまった。
テーマ決めに1時間使うつもりが、数分で決まってしまい、あとはたく兄の高校時代の話を生徒たちが根掘り葉掘り聞き出した。
たく兄も嫌がることなく語り始める。
教卓の前にいるたく兄の周りでクラスメイトのほとんどが集まっているなかに、私は入れずにいた。
そのまま席についていると、高津も同じような感じだった。
私は大勢になれていないからであるけど、
こいつの場合、いつも寄ってこられる側であるから、自ら寄っていくといことが思いつかず、席に座ったままなのだろう。
「女の子みんなとられちゃったね」
私は嫌味半分にそう言うと
「べつに、あいつらあんま好きじゃないから」
そう言い切った。
何言ってんだか。
いつも言い寄られても嫌そうな顔なんてひとつもしないくせに。
でも、そう思う反面嬉しさもあった。
あの女子たちは影で私の悪口を言っているのを知っているから。
私が高津と一緒にいることを良く思っていないんだ。
高津は私のことどう思っているかは知らないけど、
高津はあいつらのことを良く思っていないのだと思うといい気味だと思った。
私が吹っかけた冗談のつもりの嫌味によって、いつものように痴話喧嘩が始まった。
でも楽しかった。
私と高津の空間だった。
でも、その空間に入り込んできたのは
「ねえー、たくぴー今彼女いないの?」
「いないよ」
「じゃあ元カノどんな人ー?」
「え?元カノ?
んー、元カノはね……」
耳に入れたくない会話が入ってくる。
思わず耳を塞いでいた。
「おい、どうした?」
そのせいで高津の声が入ってこなかった。
「…あっ、なんでもない。」
私は慌てて平常を保った。
でも、その一言では高津は納得していないようで、
自分の鞄の中をガサゴソし始める。
そして取り出したのは何やらパンだった。
それは
「幻のレアチーズコロネ!!!」
思わず出た大きな声に
慌てて私の口を抑えてくる高津。
私は我に返って恥ずかしさを感じた。
「ほら、これやるから元気出せよ。」
仮にも授業中だ。
そっと先生たちの目を盗んで受け取った。
それは本当に幻のレアチーズコロネだった。
購買のパンが大好きな私たちにとっては、幻と呼ばれるくらい、手に入ることが滅多にない、超人気のパンだった。
それを譲ってもらえるなんて…
こいつの前で弱ったふりすれば良いのも貰えるってわけか?
と悪知恵が働いてしまった。
「もう、高津大好き!」
嬉しくて堪らなくて、高津の肩をパシンと叩くと高津は肩を抑えながら
「心配して損した」
と言ってきた。
でも、それでも私の顔をみると
安心したように、高津も優しく笑ってきた。
どんなに女子に嫌われたって
私はこいつと離れたくはない。
恋愛感情とかはない。
ただ、こいつは
私の唯一の心の拠り所なんだ。