青春の蒼い花
だけど、帰りのSHRでのたく兄登場で、またしても私の身体は緊張で固まり始めた。
たく兄は私に気づいているのだろうか。
たく兄は私がこの学校に通っていることを知っているのだろうか。
たく兄は…
そんなことばかりが頭を巡り、私はたく兄から目を離せずにいた。
でも、目が合いそうになると顔を逸らした。
見られたくない。気づかれたくない。
でも、話したい。
でも、話せない。
私はあの日の後悔を忘れられずにいる。
こんなに気まずくなるなら、あんなこと言わなければよかった。
なんで私は5歳も歳上で、幼馴染の近所のお兄ちゃんで、
無理だと分かりきっていたのに
何を焦ってあんなことを言ってしまったのだろう。
たく兄にとって私は妹でしかないのに…
パチ
ああ、とうとう目があってしまった。
バッと反射的に私は顔を横に向けた。
そして恐る恐る前を向き直すと、そこにはマジマジと私の顔を見て、少しずつ目を丸くしていくたく兄の様子が伺えた。
私に気づいたのだろうか
そう考えると恥ずかしさが込上がってくる。
私は目線を下にして、冷静さを保とうとした。
「えっ!!!蒼衣っ!???」
それと一変して、大声を出し、場をどよめかしたのはたく兄だった。
私の顔はさらに赤くなった。
私はぎゅっと目をつぶり顔を上げないようにと恥ずかしさから耐えようとした。
「…あ!ごめんなさい。急に大きい声出して。えーーーと、あの、僕そこの白石蒼衣さんの家と昔住んでた家が隣でちっさい頃からの知り合いなんだよね。」
浅井は我に返って恥ずかしさを感じ、頭をぽりぽりとかきながらそう言った。
目を閉じていながらも私はクラス中の視線が私に向けられていることに気づいた。
教室中がざわめく。
「えーー、ほんとなの白石さーん?」
「いいなー白石さん!白石さんってどこ住んでんの?」
今までほとんど話したことのない人たちの声が私に向けられる。
私はその人たちの顔を順に見ていった。
催促するように返事を待っている女子の目が痛かった。私への好奇心ではなく、たく兄への好奇心。それが悔しかった。
「高杉だけど…」
「は!まじ!たくぴー高杉に住んでんの!?遊びいけるじゃ〜〜ん!」
やっぱりだ。
私の価値はたく兄と仲がいいこと
昔からそれだけだった。
「なんだよ、たくぴーって!ははは
昔住んでたってだけで、今は一人暮らしだよ。
麻生さんだったっけ?
俺名前おぼえちゃったじゃん。」
「え~!ちょーうれしい!!!」
「たくぴー私の名前も覚えて〜!あかねね、あかね!」
「はいはい」といいながら爽やかな笑顔を振りまくたく兄。
私はこの光景を昔から見てきたんだ。
そして、そんなとき、たく兄は隙をみて私を見てくる。そして困った顔をしながら微笑むんだ。
ニコッ
ああ、まただ。
本当にたく兄なんだ。
私はたく兄の微笑む顔を見て、何かほっとしたように、強ばっていた身体が次第に柔らかく解けていくのを感じた。
そしてドキドキと胸が鳴り響いていることに気づいたんだ。
それは何かの合図のようで
まるで私の初恋を呼び起こすような
そんなふわふわする気持ちにさせた。