青春の蒼い花
純白の花
優しい手
教室に戻るともうほとんど誰もいなかった。
いたのは、私の隣の席の高津だけだった。
でも、今は高津には会いたくない。
高津を見るとさっきの光景が蘇る。
いじめなんて馬鹿なことよくするよって
今まで関係なかった私は思っていたけど、
いざいじめられる側になってみると、
あの光景は恐怖でしかなかった。
私は静かに教室に入った。
足音で高津がこちらを振り向く。
「よお、白石。
どこ行ってたんだ?」
「…ちょ、ちょっと用があって
授業終わってすぐに職員室に行ってたの」
とっさについた嘘だ。
高津はそれを聞いて
「ふーん」
と興味なさそうに返事をした。
少しホッとした。
高津のファンの仕打ちにあったなんて、高津が知ったら、こいつは私に何度も頭を下げてくるだろう。
悪いのは高津じゃない。
高津の優しさに漬け込んで
必要以上にそばにいたのは私だ。
それが恋愛感情でなく、友達としてであっても、外から見れば、
ただ私が言い寄っているようにしか見えないということが
今回の件でよくわかった。
「おい、それどうしたんだよ」
私が自分の席で帰る支度をしているとき、
高津がそう言って、私の膝あたりを見ていた。
私は彼の視線を追って自分の膝を見ると、
それは痛々しく、血が滲んでいる。
まだ痛いが、精神的なダメージのほうが強かったため、忘れてしまっていた。
「職員室から帰ってくる間に転んだのか?」
ちょっと怖い顔で聞いてくる高津。
私は必死に嘘をついた。
「まあ…ね、ひひ」
「嘘つけ」
そう言うと高津は急に立ち上がり、カバンのポケットから何やら取り出すと
それを持って、教室の前の流しで何かをし、
すぐに戻ってきたかと思うと
私の肩を押して座らせた。
そして自分はしゃがみ込み、
擦り傷のついた私の右膝にさっき濡らしたティッシュをポンポンと当ててくる。
「痛いか?」
少し染みるけど、全然痛くはなかった。
「…大丈夫。」
そして、大きな絆創膏をそこに貼ってくれた。
「…ありがとう」
いつも意地悪だけど、
こういうときは優しくて
やっぱり離れたくないと思った。