青春の蒼い花
前夜祭
文化祭は目の前までやってきた。
あと一日。
今夜は前夜祭が行われる。
1日かけて、文化祭の飾り付けや用意をし、
夜は参加した者だけで前夜祭。
とは言ってもほとんどの生徒が参加している。
キャンプファイヤーの火が灯された。
パチパチと飛び散る火花を見ていると
なんだか安らかな気持ちになった。
好きではなかった演劇を少し楽しめたのは明日香やクラスの子たちのおかげ。
そう思いつつも、少し楽しめていなかった部分がある。
「蒼衣」
そう言って私の隣に来たのはたく兄だった。
前みたいに怯えることはなくなった。
だって私はあんなことがあってもまだたく兄が好きだから。
ドキドキしている自分がいる。
「なんか最近ボーッとしてない?」
「…そう…かな?」
息が詰まっていた。
「何かあったのか?」
「う、ううん…」
ぎこちない私の反応にたく兄は眉を寄せた。
そして私の頭に手を置こうとした。
でもその手はすぐに引っ込んでしまった。
いつもはこのタイミングで頭にあの心地よい感触がくる。
たく兄の顔を見上げると、
たく兄は私の向こうにいる何かをじっと真っ直ぐ鋭い顔で見ていた。
私が振り返って見てみるとそこにいたのは高津だった。
少しずつ近づいてくる高津から目が離せなかった。
こんなに近くにいるのは久々だ。
でも、高津は私を見ることはなかった。
険しい顔で見ていたのは
たく兄だった。
たく兄は私から離れると高津のほうへ歩み寄った。
「やあ、王子様」
「やめて下さいよ。浅井先生。」
「君だけだよね、サッカー部で俺のこと殿って呼ばないよのは。」
「気に入ってるんですか?そのあだ名?
安心してください。俺、誰のこともあだ名で呼んだことないし、先生のこと嫌っているわけではないですから。
ただ…」
それまで私の顔を見ることがなかった高津は私に目を移すと、
ガッと私の腕を引っ張って自分のもとへ引き寄せた。
「白石にちょっかいだすのはやめてくれませんか?」
ドキン
高津とここまで距離が近くなったのは初めてだった。
高津の胸が腕が私の体を包んでいる。
「何それ?
まるで自分の所有物みたい。
どちらかというと俺のものでしょ?
ねえ、蒼衣。」
そう言って、私を見るたく兄の目は
あの日の目と同じ目でゾクッとした。
それでも吸い寄せられるように目を離せなかった。
ぎゅっ
それを遮るように高津が私を強く抱きしめた。
まだ理解ができない。
なんで高津がこんなことをするのかわからなかった。
「君は蒼衣の彼氏のつもり?」
「いえ、友達です。」
ドクン
もう何日も話していない。
仲良くなれたのは私が隣の席だったから
ただそれだけだと思っていた。
でも、やっぱり距離を作っていたのは自分だった。
弱い自分が自ら離れていっただけなのに、
もう一度高津が迎えに来てくれるなんて夢を見ていたんだ。
でも、本当に迎えに来てくれた。
こうして友達と
はっきりと言われると涙が出るほど嬉しかった。
そんな私の顔をみた二人はどちらもあたふたし始める。
心配するたく兄が私の腕を引っ張った。
それでも私は
高津の腕にしがみついていた。
たく兄が私から手を話すと私は
泣きながら高津に抱きついていた。
わけも分からない感情だけが込上がってきて、なんでこんな行動をとってしまったのかあとから考えても答えをだせなかった。
でも、もう離したくなかった。
高津が近くにいないこの数日間は胸が痛くて辛くて苦しかった。
誰の目も気にせず、大好きな人の気持ちも無視して、私は高津を強く抱きしめた。