青春の蒼い花
私は高津から受け取った衣装を持って
女子更衣室へやってきた。
ポケットに入れていたスマホを取り出して
ロック画面を見た。
あれ、明日香から...5件も着信が来てる
マナーモードにしていたため全く気づかなかった。
でも、こんなに電話して、どうしたんだろう。
私は電話をかけ直した。
ツーコール鳴ったところで、電話が繋がった。
「明日香ど___」
「蒼衣ごめん!!.....私、階段から落ちて、
今日、劇...出れそうにない...!!」
私の言葉を遮った明日香の言葉に私はとても驚いた。
「大丈夫なの!?出られそうにないって...どこ怪我したの!?」
「足...折れてはないみたいだけど、痛くて上手く動けなくて、、今病院にいる。
...本当にごめん。劇...どうしよう...」
明日香の不安がる顔が容易に想像できた。
私は明日香のことが心配でたまらなかった。
でも、明日香は自分の怪我のことより、
劇のことをとても心配しているようだった。
確かに、この劇は主役の明日香がいなければ成り立つはずがない。
私もどうすればよいのか頭を抱えた。
「ねえ、蒼衣.....、
私、蒼衣なら私の代わりにベルの役できると思うの。...どうかな?」
無理だ
そう一瞬にして思った
でも、電話の向こう側で不安そうにしている明日香の顔が脳裏に過ぎると、私は言葉がでなくなった。
「蒼衣、私の役のセリフほとんど覚えてたし、
劇の流れも完璧に覚えてた。せっかくの劇を私のせいでぶち壊したくないの!お願い蒼衣!!蒼衣にしかできないの!!」
その言葉が私の胸をドクンと揺らした。
二度と主役や大きな役を背負って立ちたくなかった。
でも、どこかで憧れていたのかもしれない。
捨てきれなかったのかもしれない。
覚える必要もないのに毎晩台本を眺めていた。
主人公達の気持ちを想像して、
いつの間にひとつひとつの役になり切って、声に出していた。
あの頃のくせで、練習がスムーズにできるように
劇の流れを暗記していた。
明日香の練習相手になるためにやっていたことだと思っていたけど、私は気づかないうちに、舞台の真ん中に立つことをどこかで望んでいたのかもしれない。
「わかった...明日香。
私、明日香の代わりに劇成功させてみせる!
だから心配しないでね!絶対成功させるから!!」
その後、明日香の「うん!」という嬉しそうな声を聞いて、電話を切った。