エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「冴草さんにもいろいろ頼んで悪かった。それにしても蒼弥くん、すっかり君に懐いていたな。子供をあやすのがうまいんだな」

「いえいえ。ちょうど手が空いていましたし。蒼弥くん、人見知りでしたけど慣れて来たらいろいろ話してくれてとても可愛いお子さんでした。……東條先生、七瀬さんとお知り合いなんですね」

「ああ。まさかとは思ったがこんな偶然もあるんだな」

「そうですね」

七瀬さんを見送り、聖さんとふたり並んで階段を上り二階へと戻る最中のそんなやり取り。私の心はあまり穏やかではない。それでもそれを悟られたくないというちっぽけなプライドがあったりする。

「それじゃあ、俺は自分のデスクに戻る事にするよ」

階段を上り終えると、聖さんが私にそう言って逆方向に歩き出した。

「と、東條先生!」

気がつけば、私はそう叫んでいた。

「どうかしたのか?」

聖さんが何事かと私の顔を覗く。

「……あの」

“どういうお知り合いなんですか?”喉元まで出かかったその言葉。それでも…

「えっと、あ、朝倉様のご依頼頂いていた公正証書が出来たので朝倉様に明日、朝一で電話しますね」

聖さんに面倒くさい女だと思われたくなくて私は咄嗟にそう答えていた。

「ああ、有り難う。冴草さんは本当に仕事が早いな。助かるよ」

「いえ。それでは私は定時になりましたので失礼します」

「ああ、お疲れ様」

聖さんがそう言って自分のデスクに戻っていく姿を私はぼんやりと見つめていた。
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