エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい

超えてはいけない境界線

それから私が聖さんにそのことを聞くことができないまま、一週間が過ぎようとしていた。

こんなにもモヤモヤするならば、いっそのことあの日、勇気を出して聖さんに聞いておけば良かったと後悔していたりする。

得体の知れない感情に自分自身が支配されるのが嫌で七瀬さんとのことは考えないようにと意識している毎日だ。


「……な」

「え?」

「さっきからぼーっとしているけれど、どうかしたのか?」

「いえ、特に何でもないです」

ダイニングで一緒に朝食を取っていた聖さんがそう言って私の顔を心配そうに覗く。

「具合でも悪いんじゃないのか? 紗凪は無理しすぎてしまうときがあるから」

次の瞬間、サッと私のおでこに伸びた聖さんの手。思わず、心臓がトクンっと跳ねた。

「うーん、熱はないようだな。もしかしたら疲れが溜まってたりするのかもしれない。今日は紗凪は昼から出勤だろう?」

「はい、遅出になります」

「ならそれまで少し身体を休めるといい。ここは俺が片付けておくから、部屋に戻ってゆっくりしてきな」

「いや、私が片付けます。聖さん早出だしバタバタしちゃ……」

「紗凪、こういうときは素直に甘えていいんだ。ほら、部屋に行って」

優しく微笑みながら私の顔を覗いた。

「……じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」

「ああ。そうするといい」

聖さんは相変わらず優しい。だけどその優しさが最近はちょっと苦しくなる時がある。

何でなんだろう? と考えながらベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめながら過ごした数時間あまり。そろそろ出勤時間が迫ってきて私は気怠い身体を起こして出勤準備を始めた。
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