エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「紗凪、顔を上げてくれ」

そんな言葉と同時にスッと聖さんの手が私の頰に触れた。

「聖さん?」

「紗凪に聞いてほしいことがあるんだ」

「聞いてほしいこと?」

「ああ。話を聞いてくれるか?」

「……はい」

「紗凪とは会社でも家でも多くの時間を共有してきたから紗凪がそばにいることが当たり前のことだと思っていたが……」

私の返事を聞くと聖さんが私の目を見てゆっくりと話し出した。

「だけど紗凪が俺の前で笑ってくれることも、おかえりなさい、と言って俺を迎えてくれることも、苦手な料理を頑張って作り、うまくなろうと努力してくれることも、全部それは紗凪の優しさであって当たり前のことなんてひとつもなかったんだと思い知らされた」

その瞳が真っ直ぐに私を捉え続ける。

「それと同時に紗凪が今、俺の前から居なくなってしまったらと考えたら怖かった。こんなにも紗凪の存在が俺の中で大きくなっていることに気がついたんだ」

「……っ⁉︎」

これは夢なんだろうか? 一瞬、そんな錯覚に陥ってしまいそうなくらいの予想もしなかった聖さんからの告白に私は驚いて目を見開く。

「だから紗凪、期限付きの契約結婚は今このときを以って終わりにしよう」

「え?」

「そして、これからはずっと俺のそばにいてくれ。紗凪を愛してる」

聖さんのそんな言葉と同時に私の前に影が落ちて、唇に触れたその優しく甘い温もりに私はそっと目を閉じた。
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