エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「……あっ」

次の瞬間、バチッと宙で交わった東條さんと私の視線。だけど戸惑いで明らかに挙動不審な私とは対照的に向けられたその瞳に戸惑いや驚きは感じられない。
いや、私がこないだの暴言吐き女だとは気づいていないのかもしれない。願わくばそうであってほしいと心から願う中、私の心とは裏腹に和やかな雰囲気で終わった東條さんの紹介と挨拶。

事務所の中央にある掛け時計に目をやれば予約をしているクライアントさんが来る時間が迫っていた。

私は今だに収まる事のない心音を感じながらクライアントさんに出すお菓子と紅茶の準備をしようと給湯室に移動したそのとき。

「冴草紗凪。まさか君がここで働いていたなんてな」

後方から響いた低く聞き覚えのある声。

「と、東條さん……」

振り返れば給湯室の入り口の壁に寄り掛かりどこか不敵な笑みを浮かべながら私を真っ直ぐに見る東條さんがいた。

「わ、私も驚きましたよ。まさか東條さんがここで働くなんて」

一生懸命に平静を装いながら作業を続ける。こんな私でもちっぽけなプライドってもんがあるらしい。

「こないだの威勢は嘘みたいだな。ここでは猫を被っている訳か」

「そんな事ないですよ! い、至ってこれが私の有りのままの姿です!」

ヤバい。不覚にも一瞬だけ東條さんの挑発的な発言にムキになりかけた私がそこにいて、ここは仕事場なのだからと自分自身に言い聞かせてみる。

「まぁ、いい。これから色々宜しく頼むよ。冴草紗凪さん」

「……っ」

巷ではこういうのを運命の再会とでもいうんだろうか?

私にとったら不運だとしか思えなくて、目の前に立ちはだかるどこか余裕綽々な態度で私を見下ろす東條さんを怪訝な顔をして見つめるしかなかった。
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