エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
「紗凪!」

後方から聞き覚えがある声がして反射的に振り返った。

「聖さん……」

「なかなか帰って来ないから何かあったのかと思って。紗凪が出て行った後に、悠斗も会社から電話が来たと言って出て行ったから何か言われたのかと……」

「てかさ、心配なら聖がちゃんと隣についていてあげればいいのに何やってるんだよ。紗凪ちゃん、さっき…」

「私、方向音痴だから迷ってしまって京極さんにここまで送ってもらったんです…」

きっと京極さんはさっきの悠斗さんとの一件を聖さんに言おうとしているんだろう。だけどそれを京極さんが聖さんに言ってしまったら、聖さんは悠斗さんに何らかの行動を起こすだろう。そしたらますますふたりの仲が拗れてしまうかもしれない。

そう思うと、咄嗟に京極さんの言葉を遮り、言わないでとアイコンタクトをした。どうしても秘密にしておきたかった。

「本当にそれだけか?」

「えっ? あ、はい」

「紗凪がそう言うなら信じることにするが」

「さてさて紗凪ちゃんを無事に送り届けたんで俺はそろそろお暇しようかな? ほら、聖と一緒に戻りなよ。食事会、楽しんでね」

明らかに私を疑っている聖さんを何とか交わそうと私の気持ちを汲み取ってくれた京極さんがそう言ってレストランに戻るように促した。

「暁斗、ありがとな」

「これ一個貸しだからな?」

そんな京極さんの言葉に聖さんは「今度、倍返ししてやるよ」そう言ってふっと笑った。

「そろそろ行こうか、紗凪」

「はい」

そして私は京極さんにペコリと一礼して聖さんと一緒にレストランへと歩き出した。
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