エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい

彼の誠意と、優しさと、情熱と

それから二週間が過ぎた。

聖さんとの結婚生活は驚きと戸惑いと、そして新しい発見の毎日だ。そして今日もそんな一日が静かに始まろうとしている。

「東條先生、おはようございます。本日十時より朝倉様との打ち合わせが入ってますので宜しくお願いします。こちら朝倉様の公正証書の草案が出来たので確認をお願いします」

「ありがとう。確認をしておくのでそこに置いてくれ」

会社での聖さんと私は相変わらず他人行儀だ。前にも述べたようにふたりの関係は秘密にしている。

聖さんは事務所では私を「冴草さん」と呼ぶ。私も聖さんを「東條先生」と呼ぶ。だけど私は時々、家での癖で「聖さん」と呼んでしまいそうになるときがあり、ハッとすることがあったりする。

いつも裁判などで事務所にいないことが多い聖さんだが、今日は朝から法律相談の予約がみっちりと入っている。遠方から聖さんを指名しての相談予約もあったりするくらい彼の評判はいい。

それはきっと聖さんが腕利きの弁護士だというのもあるかもしれないけれど、上から物を言う高圧的な弁護士じゃなくて相談者様に寄り添って丁寧、かつ親切に対応しているからだと一緒に働くようになってから思うようになった。


「朝倉様、おはようございます。こちらのお部屋へどうぞ」

「あ、はい。失礼します」

本日、東條先生がしているひとり目の方が打ち合わせに来られて、私は相談室へと案内した。離婚問題の件でうちの法律事務所に打ち合わせに来ている相談者様だ。

「おはようございます、朝倉さん。さぁ、どうぞお掛け下さい」

「はい、失礼します」

部屋で待っていた聖さんが彼女を出迎え、朝倉さんは席へと腰を下ろしたが、その表情はどことなく強張っているように見える。
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