愛する妻を口説く方法
作戦その2
予定より、少し早めに港についた。
ディナーまでにはまだ時間がある。
トイレに行った美海を、ラウンジの壁にもたれて待ちながら、
この後の作戦をシミュレーションする。
ここから先は大人のデート。
美海の好みを考えて、恋愛小説に出てきそうなネタも仕込んだつもり。
こんなに緊張するのは、プロポーズ以来か………
それにしても、遅い。
よほど、トイレが混んでいるのか。
体調でも悪いのか。
気になって、化粧室がある方を見ると、あろうことか知らない男と楽しそうに話をしている。
……あのヤロウ
急いで2人のもとへむかう。
「美海さんはデートですか?」
「うん。」
「そうだよ。」
聞こえてきた会話。
美海の返事に被せるように答えながら、
後ろから美海を抱き寄せる。
「えっ?!ちょっと、雅樹!!」
美海が慌てているけれど、構うものか。
彼を睨む。
彼はきょとんとしたあとにこりと笑った。
『俺はあなたの敵ではない。』
彼の目がそう言っている。
でも、懐かしさを含む寂しそうな瞳に、彼が美海を慕っていたのだと悟る。
「じゃぁ、美海さん。デート楽しんでくださいね。また、会社で。」
「うん。原田くんもがんばってね‼」
彼が去っていくのを見送る。
「ずいぶん仲良さそうだな。」
「原田くん?同じ部署の後輩だよー。同じ業務担当してたから仲はいいよ?」
「あっそ。」
少しの嫉妬。
そして、
恐らく、美海は彼の気持ちには気づいていない。
彼を見ると、側にいる女性を愛しそうにみつめている。
「原田くん、今日プロポーズするんだって。」
彼も新しい恋を見つけているのだと、安心した。