ユリの花はあまり好きじゃない
 不実な関係から5ヵ月が経過したある日のこと。

「そろそろご両親に挨拶をって考えてるんだけど」

 あ……と言ったきり、声が続かなかった。

 それを拒否反応と勘違いしたのか、慌てた様子で「百合がまだ早いって思うならもう少し先でもいいよ」と桐生さんが言った。

「……そうじゃないんです。そうじゃないんだけど」

 言い淀む私に「ごめんごめん。ちょっと急だったね。ご挨拶は百合のタイミングで伺うようにするよ」と桐生さんの長い指が私の指に絡む。

 我が家は良家でも何でもなく、ごく一般的なサラリーマン家庭だ。

 両親ともに良い意味で子離れしているせいか、私に干渉してくることなどほとんどない。
 けれど桐生さんを自宅に招待できない理由を「親が厳しくて」と適当な方便で誤魔化していた。

 この日は何とかやり過ごした。
 でも深夜遅く帰宅した私を見て、シンちゃんが不機嫌そうな顔をしていた。

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