ユリの花はあまり好きじゃない
 でもシンちゃんとの関係に終止符を打つタイミングも訪れない。

 お金に余裕が芽生えたこと、桐生さんという存在が私の拠り所になっていることから、仔犬の粗相にいちいち腹を立てることすらなくなっていた。

 良く言えば寛大、悪く言えば無関心。

 シンちゃんがパチンコに行こうと、幾ら散財しようと、ゲームに明け暮れていようと、気にならない。むしろ、彼の気持ちが私以外に向けられていることで、桐生さんとの関係を継続できる。

 だからシンちゃんには「はい、軍資金」と笑顔でお小遣いまで渡しているような状態だった。

 罪滅ぼしと言えばそうかもしれない。
 自分がしていることは「悪いこと」だと認識していた。だからシンちゃんに優しくできた。

 浮気する男が本命の彼女に優しくする理由が腑に落ちた。
 シンちゃんとは表面上は穏やかで、うまくいっているように見えた。
 多分シンちゃんも同じように感じていたに違いない。

 デートの帰り、桐生さんに実家近くまで送ってもらった。

「ご両親にいつが都合がいいか聞いておいてね」車を降りるときに言われた。
 だから私は頷いた。

 車が走り去るのを見届けて、私は歩き出した。
 二股関係から約1年、木々は蕾が膨らみ始め、春の匂いが薄っすらと広がる暖かな夜。
 私は実家の門扉をくぐった。

「今度、紹介したい人がいるの」と両親に告げた。
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