ユリの花はあまり好きじゃない
 好物のハンバーグをたらふく食べてご機嫌な様子だ。

 画面ではスポーツカーがレースを繰り広げている。自分好みにカスタマイズされた車でスピードや性能を競い合うゲームは大人気の新作らしい。

 くっそー、とか、うわっ、とか、独りごちては身を乗り出して、ゲームに没頭するシンちゃんの背中を見つめていた。

 いつもと変わらぬ食後の光景。何年も何年も同じことを繰り返し、紡いで来た私たちの日常が広がっている。

 シンちゃんとの関係性を比喩するなら履き慣らしたスニーカーだ。
 足にフィットする心地良さがあって、汚れていても、ちょっと古くても愛着があって。
 けれど、履き慣れたスニーカーに情はあっても、それがもう愛情では無くなっていることを私は知っていた。

 私は履きづらくても、歩き方が少しぎこちなくても、真新しいパンプスを選んだのだから。

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