ユリの花はあまり好きじゃない
 とても静かな夜だった。
 ささやかな月明かりが、シンちゃんの顔を仄白く浮き上がらせていた。

 シンちゃんの眠りは深まり、寝息のたびに体が規則的に隆起する。

 私はそっとベッドを抜け出した。

「百合?」

 と、くぐもった声が背中越しに聞こえた。

「トイレだよ」

 そう声をかけたら、安心したのか顔を緩ませ、闇に溶け込むようにすっと眠りに落ちて行った。

 それがシンちゃんをこの目で見た最後の姿だった。
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