ユリの花はあまり好きじゃない
 確かこんな内容だったと思う。
 自分のことは棚に上げまくりの最低な手紙をポストに投函した。

 シンちゃんを悪者に仕立てることで「シンちゃんがそうだから仕方がない」という口実を作った。

 それから更に数日が過ぎた。
 携帯電話を解約する前日の夜、シンちゃんから着信が入った。

「もしもし」

「百合?」

「うん」

 逃げ出した日から、二週間くらいが過ぎていたのだろうか。
 シンちゃんの声が、随分懐かしく耳に響き、その時点で鼻の奥が熱を帯びた。
 しばらく沈黙が続き、数分が経過した頃、シンちゃんが「手紙届いたよ。ごめん」と苦しそうな声で言った。

 表情が容易に脳裏に浮かぶ。
 きっと今にも泣き出しそうに顔を歪めているのだろう。

 胸が痛い。
 息が詰まる。
 私は奥歯をぎゅっと噛み締めていた。

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