ユリの花はあまり好きじゃない
 堰を切ったかのように涙が溢れ出した。

 携帯電話を握る手が震える。
 胃の腑がせり上がり、油断すると嗚咽が溢れそうになった。

―――俺がいい子になれば百合は戻って来てれるんだよね?

 何度も耳の奥で繰り返されるシンちゃんの声が、あまりにも哀しかった。

 罵倒してくれたほうがましだった。

 うん、とも、いいえ、とも言えなくて、何か言葉を言おうとしても、多分、きっと声にならない。

「百合?」

 顔を覗き込まれたような気がした。
 声だけなのに、シンちゃんの表情も、動きも、温もりでさえも、全部、全部、感じ取れることが辛かった。

 ぎゅっと唇を強く結び、顔を上げた。
 泣いているなんて思われたくない。

 このままシンちゃんの声を聞き続けていれば、足元から決意が崩れ落ちてしまいそうだった。

< 41 / 43 >

この作品をシェア

pagetop