綺麗なブルーを描けません
柊くんは黙って彼女に近づくと、あたしと同じように手首に巻かれていたテープを引きちぎった。

彼女は、振り返りもせずに、自由になった手で、自分の口に貼られたテープをはがして、

「大丈夫!?孝之(タカユキ)」

あたしのことも、柊くんのことも、目に入らない様子。

…そんな…

柊くんのことは完全無視ですか。

両手を使うために離したせいで、額から血が噴き出している。

柊くんは、それを、邪魔そうに袖で拭う。

「…助けてあげなきゃって、思わなければよかったよ」

つぶやくと、彼女は、一瞬だけ、動きを止めた。

でも、たった一瞬。

あたしは、柊くんに腕を掴まれて、その場を後に、歩き出す。

「…あいつ、ヒマだったんだよ。だから、こんなつまらないことを考えて、仕掛けてきて。…面白くもなんともないのに」

静かだけど、怒ってる口調。

「ごめんね、くだらないことに巻き込んでしまって」

「…あ、あたしこそ、ごめん。あたしのこと、助けないといけない羽目にさせて」

柊くんはこっちを見ると、ふっと表情を緩ませた。

「…オレを困らせたかったんだろうけどね、悩む余地すらなかった」

玄関を抜けて、外へ出る。

「柊!!」
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