センパイの嘘つき
「やっぱり冬の屋上は寒いっ」
お昼休み。先輩は私の前で震えながら購買のパンにかぶりついた。
「先輩がここで食べたいって言ったんでしょ!」
私は指先が冷たくなるのを感じながらお弁当を開く。
「んー、柚月ちゃん、みんなに見られるの嫌かなって思って」
「…それは、たしかに嫌ですけど」
無遠慮な視線は、痛い。
ふわっと甘い香りがする。
「先輩、これ…」
「寒いでしょ、着てな?」
そう言って私の肩にブレザーをかけた先輩は、セーター1枚で震えてるのがバレバレで。
「っ…先輩のバカ!風邪引いたらどうするの!?」
私は立ち上がってブレザーを脱ごうとする。
「あー!まって!わかった!」
指先をちょい、と引かれて先輩の足の間に座らされる。
「これくらいの距離なら大丈夫?」
ギリギリ触れない距離。これじゃ、先輩はあったまらない。
「私ばっかあったかい…」
「俺もあったかいよ?」
嬉しそうに笑う先輩に、胸が痛む。
ごめんなさい、先輩。抱きしめてあげられなくて。くっついてとなりに座ることすらできない私の彼氏にしてしまってごめんなさい。
優しい先輩は断れないから。そんな先輩の優しさにつけ込んで、ごめんなさい。