センパイの嘘つき
「…先輩」
あれから無言で私の前を歩く先輩。
…やっぱりまだ、怒ってるよね?
「…先輩!」
私は思い切って先輩の手を握る。
指先だけしか触れることができないけど、それでも自分から触りたいと思うなんて。
先輩も驚いた顔をして私の方を向く。
「…ごめんなさい、黙ってて。迷惑、かけたくなくて」
これ以上、先輩に負担をかけたくなかった。
「…柚月、俺はお前が傷つくのが苦しいよ」
うん、もうわかったよ。気づけたよ。
「お前が一人で傷ついてるのが、俺にとっては一番辛い」
あなたがどうしようもなく優しくて、私を大切にしてくれているってこと。
そして、それは私もなんだ。
「…今度からはちゃんと言います。全部。だから、先輩も言ってください」
私の傷を先輩が一緒に受ける代わりに、私も一緒に先輩の傷を受けよう。
傷ついて、傷つけて。なんてバカなんだろう。
でも、それが人間なんだ。