センパイの嘘つき


1週間が過ぎた朝、私は驚きですぐには声が出なかった。


「…先輩?そのケガ…」


「いやー、ちょっと喧嘩した、友達と。大したことないよ、本当に」


そんなの嘘だ。


目の上に貼られたガーゼ。その下はきっと不自然に腫れているのだろう。細かい傷も増えてる。


何が起きてるの?先輩は、誰に傷つけられてるの?


私はただただ怖くて、何も聞けなかった。


知りたい。でも、知ったら何かが壊れてしまう気がして。


先輩の手をすがりつくように握った。


そうしないと何処かに行ってしまいそうで。私の前から、消えてしまうんじゃないかって。


私は心の中で見えない誰かに叫ぶ。


お願い、先輩を連れて行かないで。


側に、いさせてください。


やっと気付いた気持ち。ちゃんと、先輩に話もしたい。


話したいこと、たくさんあるんです。


先輩の手を強く握るけれど、反応はない。


先輩は、ぼんやりとした目でただ前を見つめている。


「先輩…?」


先輩、どこみてるの?何を考えてるの?私は、先輩の隣にいるよ。


届かない。私の声が、届かない。


先輩の目に、私は映らない。

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