センパイの嘘つき


いきなり手紙なんて書いてごめん。びっくりしたよね。


でも、伝えたいんだ。柚月ちゃんに、本当の俺を知って欲しい。だから、聞いてください。


物心ついたときから、俺の世界には父親がいなかった。薄暗い部屋で俺はいつもひとりぼっち。だから、たまに帰ってくる母親に抱きしめてもらうことが俺の唯一の楽しみだった。


母親は、不安定な人だった。俺を大好きだと言って優しく抱きしめるときもあれば、泣きながらいなくなれ、と俺をぶつときもあった。


痛かった。怖かった。でも、それ以上に母親に愛されなくなることが、怖かった。


身体中に痣ができた。傷ができた。小学生の頃、友達に気持ち悪いと言われて、俺は見られてはいけないということを知った。


俺は、隠すようになった。笑顔を、絶やさないようになった。


そして、俺が中学に上がる頃に、母親はいなくなった。

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