センパイの嘘つき


俺はまた、ひとりぼっちになった。


俺は体温を求めた。傷ついている女の子たちが自分と重なって見えて助けたいと思ったし、必要とされることが嬉しかった。たとえ、そこに本物の愛なんてなくても。


そして、高校2年の春、俺は柚月ちゃんに出会った。


あれは、入学式の朝だった。電車の中で君を見かけて、一目でわかったよ。君が、人間が苦手なんだってこと。


一人の男の子の泣き声が、車内に響き渡った。その子は柚月ちゃんの前に座ってて、心細かったのかわからないけど、突然泣き出したんだ。


周りの大人は迷惑そうにチラチラ見るだけで、何もしようとしなかった。俺が声をかけようとしたその時、君はしゃがんでその子の手を握ったんだ。


「大丈夫だよ」って言う柚月ちゃんの顔は全然大丈夫そうじゃなくて。顔色悪いし、ブルブル震えてるし。


でも、笑ってた。君は、必死に笑ってた。


俺は、目が離せなかった。なんでかな、でも君に惹かれたんだ。


男嫌いを治すためだと言って君に近づいて。ボロボロになっても一人で立とうとする君を助けたいと思った。


バカだよね、助けられてたのは、俺の方なのに。


柚月ちゃんが付き合おうって言ってくれた時は、本当に嬉しかったんだ。嘘だって分かってても、嬉しかった。幸せだったよ、生まれて初めて、幸せだった。




そんな時だった。母さんが帰ってきたのは。


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