センパイの嘘つき
「あ、先輩つけるのなしだから」
ニヤニヤ笑う先輩が恨めしい。
私はフーッと息を吐く。
落ち着け、私。こんなの、名前を呼ぶだけだ。
「ゆ」と「う」と「と」ってひらがなをなんとなく並べて言うだけ。
嫌がることなんて、なにもない。
「柚月ちゃん」
声に、顔を上げる。
「ちゃんと、俺の目みて」
先輩の声だけが、保健室に響く。
今更、ここには私たち2人しかいないんだ、なんて思って。
ふわふわの、綺麗な金髪。くっきり二重の目。鼻筋が通っていて、あ、目の下にホクロがあるんだ。
整った顔してるから、女装したらきっと可愛いんだろうな、とか。
でも、首にくっきりと浮かび上がる喉仏をみると、ちゃんと男の人なんだなって。
そう、思ったら、鳥肌よりも、なぜか、心臓が震えた。
なに、これ。
名前、呼ぶだけなのに。
身体中が、おかしいくらい熱い。