センパイの嘘つき
咲は、口を開こうとして、一度閉じた。ふっと、真剣な表情になる。
「…で、先輩のことは?どうしたいの、柚月は」
「会いたい」
言ったら、怒られる。分かってたけど、反射的に答えてしまった。
「…言うと思った」
「…怒んないの?」
「悔しいなあー、柚月にそんな顔させるなんて。柳先輩は、ずるいね」
「…うん、ほんとに」
なんてずるい人なんだろう。
「会えるよ、きっとすぐに」
そう言って、咲は立ち上がり、私の追求を避けるように病室を出てしまった。
会えるのかな、本当に。
最後に触れた手の感触を、強く覚えている。
身体中痛くて、血の匂いでむせかえって吐きそうになりながら、それでも泣くほど嬉しかった。
「先輩…」
声に出すだけで、苦しい。
会いたい。話したい。…抱きしめたい。
先輩、今どこにいるの?
何を、思っていますか…?