センパイの嘘つき
助けて
「じゃあ、まずは何からする?」
先輩の質問に、私は首をかしげる。
こうして密室で男の人と2人でいることが、私にとっては奇跡に近い。
他にすることなんてあるのか。
「じゃあまずは隣に座ってみる?」
先輩の提案に私は驚き、慌てて首を横にふる。
「これ以上近づくのは無理です。」
「…じゃあ電車はどうしてるの?」
「…女性専用車両。」
ないときは、しょうがないから乗るしかない。
朝とはいっても満員電車ってほどではないから、我慢すればなんとか乗り越えられる。
「…男の人の匂い、無理なんです。気持ち悪くなっちゃう」
男の人たちが悪いわけじゃないのは分かっている。
でも、嫌でも思い出してしまう。
大きな彼らに囲まれて動けない体、吸い込んだ、「男」の匂い。
「…ムカつく」
先輩のつぶやきに、胸がズキリと痛む。
でも、そう思われてもしょうがない。
「…失礼なこと言ってごめんなさい、でも」
「違うよ」
先輩の顔は、怒っているわけではなさそうだった。でも、なんか、ふてくされてる…?
「俺の匂いを知らないくせに、気持ち悪いなんて言わせない」
ああ。そうだった。
この人、モテるんだった。
数日間で分かったこと。先輩は、自分が女子に拒絶されることに慣れていないんだ。