センパイの嘘つき
私はじっと先輩の頬を見つめる。
「そんなに見つめられると、困るなあ」
「そ、そういうつもりじゃ!」
先輩の言葉に、私はすぐに体を離す。
もともとそこまで近くなかった私と先輩の距離は、不自然に遠くなってしまった。
「冗談冗談。かわいいね、赤くなってる」
「…ほっぺた、切れてますね」
私は先輩を無視して絆創膏と消毒液を手に取る。
「ちょっとね、もめちゃって。」
私は震えそうになる手をなんとか落ち着かせて傷の手当てをする。
「いやー、こんなかわいい子にやってもらえるなんてラッキーだな」
「ちょっと黙っててください。」
やっとのことで消毒液を塗り終え、私は絆創膏と氷のうを先輩に突き出す。
「…あとは、自分でやってください。」
「え?やってくれないの?」
そういうと先輩は立ち上がり、一歩私の方に近づく。
私もそれに合わせて一歩後退した。
無言でもう一歩近づく先輩。
後ずさる私。
一歩、また一歩、と繰り返すうちに私の背中に何か固いものが当たった。
それが、保健室の壁だと遅れて気づく。