センパイの嘘つき
「柚月!!!」
物凄い音と共に、声が保健室に響いた。
掴まれていた腕が、離される。
視界の端に揺れる金髪。
きてくれた。先輩が、きてくれた…
「誰だ、お前」
聞いたことのない、先輩の低い声。
「柳悠人…柊木さんに近づくな!柊木さんは、僕のものだ!」
「は?」
次の瞬間、私の耳に入ったのは「ひっ」という男の短い悲鳴だった。
「今後一切柚月に近づくな。ストーカー野郎が」
男の胸ぐらを掴み上げてそう言い放つと、男はそのまま逃げて行った。
私はゆっくりとベッドから起き上がる。
手が、おかしいくらいに震えている。
「柚月ちゃん…」
先輩が、そっと手を伸ばしてくる。
「いやっ!」
私は思わずその手をはねのけてしまった。
「あ…ごめん、なさい…」
「…ううん、俺こそ、ごめん」
先輩の目が、私の震えている手をみていることに気付く。
「大丈夫です、すぐに、おさまるんで。心配かけて、ごめんなさい。でも、本当に…」
「いいから」
優しい、声だった。
「無理しなくて、いいから」
優しすぎる先輩の眼差しに、私の目から涙が溢れた。